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福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)65号 判決 1969年7月21日

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し原判決添付目録第一記載の建物を収去して同第二記載の土地を明渡せ。

被控訴人は控訴人に対し昭和四一年二月九日から右明渡ずみまで一箇年金一万五、二七五円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は第三項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は「一、本件控訴を棄却する。二、控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において被控訴人の弁済提供の抗弁に対して訴外福家恭一は昭和四二年一一月二〇日控訴人方を訪問の際被控訴人の代理人たること又訪問の目的につき何ら表明することなく、かつ本件賃料の提示も賃料持参の告知もなしていないから右は債務の本旨に従つて現実の提供があつたものとは云い難いと述べた。

証拠(省略)

理由

被控訴人が従前より本件土地につき一箇年賃料一万五、二七五円の賃借権を有し、右土地の上に本件建物を所有すること、並びに、控訴人が被控訴人に対し昭和四二年一一月一六日到達の内容証明郵便で同月二三日を期限とする未払賃料の支払催告と不払を条件とする賃貸借契約解除の意思表示をなしたことは当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第一号証の一ないし三並びに原審控訴本人の供述を綜合すると控訴人は本件土地につき、昭和四〇年一一月三〇日福岡地方裁判所田川支部昭和三九年(ケ)第一七号不動産競売事件において最高価額金三七万円で競落許可決定を得、その頃代金を納付して所有権を取得した上昭和四一年二月九日所有権移転登記手続を了し前所有者の被控訴人に対する本件土地の賃貸人たる地位を承継したことが肯認される。

そこで被控訴人の弁済提供の抗弁について判断するに、原審証人福家恭一(一、二回)、同宮林静野の各証言、当審証人金村幹男こと金鎮輔の証言、原審並びに当審における控訴本人の供述(右金の証言や控訴本人の供述中後記措信しない部分を除く)を綜合すると、控訴人よりの前記賃料支払の催告と条件付賃貸借契約解除の意思表示を受けた被控訴人は右催告の期限内である昭和四二年一一月二〇日、従来本件土地のことで世話している訴外福家恭一に賃料の支払を依頼し同人を代理人として昭和四〇年一二月一日以降同四二年一一月三〇日までの二年間の未払賃料合計金三万五五〇円を携帯させ控訴人方に赴かせたこと、しかるところ、右福家は被控訴人より預り持参した前記内容証明郵便を控訴人に示しその事情を尋ねたところ控訴人は小倉の弁護士に一切任せており、夫も留守だし何も分らないと返事したこと、福家はその際控訴人に対し被控訴人の代理人たることを表明し持参の賃料を提示しその受領を求めることはもとより賃料持参の告知をもなさなかつたことが認められ、前記金鎮輔の証言や控訴本人の供述中右の認定に反する部分はたやすく措信し難く他に右の認定を覆えすに足る証拠は存しない。

右の認定事実に徴すると、福家の前記言動によつて控訴人において福家が被控訴人の代理人として賃料支払のため訪れたことを知るに由なく従つて右をもつて債務の本旨に従つた現実の提供があつたものとはみなし難いから被控訴人の前記抗弁は理由がない。

しかして成立に争いない甲第二号証の二によると本件催告は支払額を明示した催告ではないけれども昭和四〇年一一月三〇日競落許可決定による所有権取得後右催告日までの賃料の支払を趣旨であることが認められるから適法な催告というべく、被控訴人においてその後右催告の期限内に控訴人に対し前記賃料債務を履行したとの主張立証はないから右不履行により期限の昭和四二年一一月二三日の経過と共に本件賃貸借契約は解除されたものというべきである。尤も被控訴人は昭和四二年一二月一日右賃料額を弁済供託した旨主張するけれども供託の要件事実並びに供託の事実については何らの立証も存しない。

そこで、被控訴人に対し右解除を原因として本件家屋の収去、土地の明渡並びに控訴人が本件土地につき所有権移転登記手続を了した昭和四一年二月九日以降賃貸借契約終了日までの賃料及び契約終了日の翌日以降右明渡まで賃料相当額の損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は理由がある。

よつて右の判断と異なる原判決を取消し、控訴人の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条、金員の支払を命ずる部分についての仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し、なお、建物収去、土地明渡を求める部分についての仮執行宣言の申立については本件の場合相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

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